pipipipipipipi・・・・pipipipipipipi

風呂上り、リビングのテーブルの上で鳴っている電話の音が聞こえてきた
俺は、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ向かい
ソファーに腰掛けて携帯を開いた

 
ディスプレーされた名前に、心躍らせて・・・俺は着信ボタンを押した

「・・・もしもし、か?」
「珪くん!あのね」

「・・・ん?」
「今からいくから、珪くんの家」

「え・・・?・・・今から?」
「うん、一緒に飲もうよ」
「飲むって・・・、今日は藤井と飲んでるんじゃ・・・」

が今日・・・藤井と久しぶりに飲む話は、聞いていた
姫条も一緒だから、俺もどうかって誘われたけれど
外せない撮影があったから・・・断った
でも撮影が思ったより早く済んで・・・俺は家に戻っていた

「とにかく、もうすぐ着くからお酒用意して待っててね!」

それだけ言うと、電話は既に切れていた
の口調は、既に酔っているのか、普段と違っていた
いつもは・・・、控えめな雰囲気をもっているけれど
今夜は・・・・言葉に「勢い」があった・・・

俺は・・・、冷蔵庫の中から氷を取り出してワインクーラーに入れて
ワインラックの中からシャンパンを抜いて・・・セットする
親父の「とっておき」を飲んだら怒られそうな気もしたけれど・・・
一番高そうなボトルを選んだ



ピンポン♪

玄関先でチャイムが鳴って・・・、俺がドアを開けると
赤い顔をしたが・・・やけに直立した状態でたっていた

「珪くん・・・こんばんわぁ」
「・・・ん、こんばんわ」

「お邪魔してもぉ・・宜しいでしょうかぁ?」
「・・・どうぞお入りください」

妙に礼儀正しいの言葉使いに、笑いを堪えながら返答したけれど
玄関を上がろうとした途端、ふらついたにおどろいた

「・・・おまえ、もしかして、かなり酔ってないか?」
「そーんなことありません!ぜーんぜん、酔ってないから平気ですぅ
んじゃぁ・・・おっ邪魔致しまぁ〜〜す」


リビングへ入ると、はいつもの場所に座る
がこの家へ来るのは・・・・もう何度目だろうか
キッチンで・・・料理をしてくれることもあるし
お互いに座る場所も自然に決まっていた

改めての顔を明るい場所で見たら・・・
酔っている事には間違いないらしく
紅潮した頬が・・・やけに色っぽく見えて・・・
俺はたまらず視線を逸らしキッチンにたった
はカウンター越しに、俺に声をかける


「珪くん、急に来てごめんね?」
「いや・・・、ちょっとビックリしたけど・・・」

「だってねぇ〜、聞いてくれる?」
「ん・・・?」

は・・・・、今日、藤井と姫条と飲んだ時のことを話し始めた
藤井と仲のよいは・・・、こうしてたまに一緒に遊んだりしている
その度に・・・、藤井の「のろけ話」を聞かされるらしく
今夜は・・姫条もいたことだし・・・目の前で見せ付けられでもしたんだろう

既に酔っているにこれ以上飲ませるのはまずいと思って
俺はコーヒーの準備を始めようとした
すると、リビングでシャンパンの栓を抜くポンっという音がして

「もう・・・、いちゃいちゃしちゃって、嫌んなっちゃうー」

そんなの呟きが聞こえてきた
俺が慌ててリビングへ戻ると・・・
はグラスになみなみと注いだシャンパンを飲もうとしていた


「おい・・・、もう飲むのは・・・まずいだろ?」
「どうして?珪くんも一緒に飲もう」

そう言うと、は手元がおぼつかないにも拘らず
俺の目の前に、細かな泡が立ったグラスを差し出した

「大丈夫なのか・・おまえ?」
「全然平気だよぉ?私、どっか変?」

「いや・・・、変って訳じゃ・・・」
「じゃ・・・、珪くん、かんぱぁ〜〜い」

そう微笑んで、はグラスの中を一気に空にした

・・・、そんなに急に飲んだら・・・おまえ」
「だいびょうぶだってぇ〜、もう、珪くんもぉ、飲みなさいぃ〜!」

「だいびょうぶって・・・・、口が回らなくなっているぞ」
「うるさいなぁ〜、姫条くんもそうだったけど
珪くんもぉ〜、私のことバカにしてるでしょ?」

「バカに・・・?別に俺は・・・」
「だってぇ〜、このくらい飲んだって、ぜんぜ〜ん平気なんだからぁ」

そう言うと・・・、グラスにシャンパンをまた注いでいる
まずいな・・・
これほどまで酔った状態のは・・・見たことがない
たいていの場合・・酔っていないと主張する人ほど実際は酔っている
目の前のが・・今まさにその状態


・・・もう止したほうがいい・・・やめておけ」
「珪くん、このお酒おいひーね」
「だから・・ちょっと待て・・おい!」

制止も聞かずに、がグラスを煽ろうとしたので
俺は・・・思わず駆け寄って・・その手を押えた

「あ・・・珪くん」
・・・もう止せ、な」

俺がそう言うと・・・はこっくりと頷いて
真っ直ぐに俺を見上げた
そして・・俺が押えた手を握り締めてきた

「珪くん・・・、珪くんの髪・・・きれー、触ってもいい?」
「え・・・」

戸惑う俺の手を・・・がグッと引き寄せる
俺は・・・バランスを崩して・・の隣に倒れこんだ

「珪くんの髪の毛・・・ほんと〜にきれいだね〜」

そう言うと・・・、何を思ったのか俺の髪の中に手を入れて引き寄せた
俺は・・・どうする事も出来ずに固まった


「・・・・・」

「珪くん・・・いい匂いがするね・・・シャンプーの匂い?」
「・・ああ、さっき風呂・・・・入ったから」

の顔が・・・触れるほどの距離にあって
・・・俺の心臓は早鐘の如く鼓動している
は・・・そんな俺のことなどお構い無しに・・・
ゆっくりと俺の髪を撫でている


「珪くんの好きな人ってだれ?」
「え・・・」

突然の問いかけに・・・俺は更に固まって・・・返事も出来ずにいた

「珪くんは・・・誰が好きなの?」

俺の髪を撫でながら・・・、そう問い掛ける
少しの沈黙の後・・・、は俺の肩にもたれ身体を預けてきた



高校での三年間・・・
そして、大学生活での一年半
もっと・・・振り返れば・・・たった5歳の頃からのこの想い
俺は・・・結局伝える事が出来ずに
今まで・・・「友達」としてと過ごしてきた

気持ちを伝える事で・・・、何かが変わってしまうのが怖かったから・・・
そんな弱い自分を・・忌々しく思う日々でもあった
けれど・・・、がこうして身体を預けてきている今・・・
男として・・・、答えないわけにはいかない
俺は・・・、そう決心しての身体をそっと抱きしめた


・・・・」

は・・・俺の腕の中で・・・目を閉じてじっとしている
預けられた身体の重み・・・そして、触れ合った温もりを感じながら・・・
俺は・・・、長い間言えなかった言葉を口にした


・・・・、おまえが・・・・好きだ」

俺は・・・の身体を更に力を込めて抱きしめた
すると・・・急にがくんと身体が傾いて・・・はソファーに倒れこんだ

「え??」



それから30分後・・・・
は・・・、俺の膝を枕にして・・・規則正しい寝息を立てている

俺にした質問と
俺が答えた言葉

は覚えているのだろうか・・・
もし、覚えているのなら・・・・それでも良いけれど
酔ったの記憶には残らない事を・・・・俺は祈っていた


・・・おまえが・・・、起きている時に
もう一度きちんと言うから・・・・待ってろ」

閉じられた瞼の・・・長い睫毛を見つめながら・・・
俺は・・・の髪を撫でていた

ワインクーラーの氷が溶けて・・・
シャンパンのボトルが中へ落ち込んでゆく・・・

いつか・・・、この気持ちを伝えた後に
もう一度・・・この美味いシャンパンで乾杯しよう・・な、
もちろん・・・おまえの返事は・・・


END



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